ノリウツギ

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 7月に入り、本州各地ではようやく平年の何日遅れかで梅雨が明け、盛夏を迎えるという。しかし札幌では8月に入ったばかりというのに、夜風はまるで秋風のようだ。つい2~3日前までは「やっとビールの季節到来」などとはしゃいでいたのがずいぶん前のことのように思えてしまう。
 9月初旬前後に、滝野公園のこれから開園される森林体験ゾーンで市民団体向けの見学会を企画している。7月の末にそのコースタイムを確認するために滝野公園に出かけた。
 夏の花「ノリウツギ」が満開である。ノリウツギはどちらかといえばやや湿った環境に生育していて、湿原周辺部や山間の沢などでよく見られる。しかし実際に森の中に入ってみると、けっこう上層木の樹冠が開いたところに樹高3mを越すような背丈で咲いている。
 ノリウツギは、ユキノシタ科アジサイ属、つまりアジサイの仲間である。ガクアジサイやツルアジサイと同様に花と思っている白い花びらのようなものは装飾花と呼ばれるもので、萼(がく)が変化したもの。アジサイはガクアジサイから園芸的につくられたもので、装飾花だけになっている。装飾花の由来は種類によって異なり、ユキノシタ科アジサイ属では先に書いたように額が変化したものであるのに対して、オオカメノキなどのスイカズラ科の装飾花は花冠(かかん:萼の内側の花びらや雄しべなどの総称)が変化したものであるという(清水建美,2001)。本物の花というとことばは変だが、実際にタネをつける花は装飾花の内側に見られる小さな白い玉のようなものである。数年前に知床峠付近でツルアジサイのタネを採取したときに、ちょっと割ってみてその吹けば飛んでしまう小ささ、軽さに驚いたことがある。あんな小さなタネでも条件さえ整えば立派に大きくなるのだから、植物は不思議だ。

今日の花は「ノリウツギ」(Hydrangea paniculata)
 和名ノリウツギは漢字で書くと、広辞苑では「糊空木」となっている。実はいろいろな樹木図鑑などを見てもこの漢字では書いていない。ノリウツギの「ノリ」はその内皮を製紙用の糊として利用したことから名付けられ、空木(ウツギ)は髄が中空になっているから名付けられたとされている(深津正,1985)。確かに続けて漢字で書くと「糊空木」となる。
 もう十数年も前のことになるが、現在日本製紙勇払工場となっている、当時山陽国策パルプの新工場の、外構の基本計画から実施設計・施工管理までを手がけたことがある。このときにノリウツギを象徴的に使用した。工場に対してのプレゼンテーションのときは、最初「何だ、サビタか」と言われたのだが、ノリウツギと紙を結びつけて話すと「それは是非に」ということでトントン拍子に話が進んだ。私の設計ミスということになるのだろうが、実際には防風用の盛土の斜面から上部にかけて植栽してしまい、その後の生育は良くなかった。いずれにせよ、私には思い入れの強い樹種ではある。
 別名をサビタという。原田康子の小説「サビタの記憶」は名前を聞いたことがある人は多いだろう。先に山間の沢などに多いと書いたが、サビタの語源はそのあたりからきている。もともとは「サワフタギ」だったらしい。それが次第になまって「サビタ」になったのだという(辻井達一,1995)。
 属名Hydrangeaはhydor(水)とangeion(容器)というギリシア語にちなむ。水を入れる容器ということらしいが、さく果つまり実の形状からきているということだ。種小名paniculataは「円錐花序(円錐形の花の着き方)の」という意味である(牧野富太郎,1981)。
 「サビタのパイプ」の話はいろいろな本に書いてある。そういう私も学生時代、実習に行くとサビタを切って、髄に焼いた針金を通して中空にし、口元にあたる部分を削りパイプにして遊んだものだ。

[参考文献]
清水建美,2001,図説 植物用語事典,323pp,八坂書房
深津 正,1985,植物和名語源新考,244pp,八坂書房
辻井達一,1995,日本の樹木 都市化社会の生態誌,296pp,中公新書,中央公論社
牧野富太郎,1981,牧野新日本植物図鑑,1060,北隆館

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